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左手で入賞 [みどり日記]

10月22日、母は72回目の誕生日を迎えた。6年前に倒れため麻痺が残って筆を握れない右手から、左手に筆を持ち替えて、40年間の趣味としてきた書道や水墨画を今も続けている。3年前には、思いがけず熊本県さわやか長寿財団主催のシルバー作品展で銀賞を受賞した。今年は、財団法人日本通信美術学園主催の第9回総合水墨画展の俳画部門で最優秀賞無しの優秀賞(二名)に選ばれたため、来月7日の東京での表彰式に出席する。片麻痺になってから始めての上京なので、私たち夫婦が同行する予定だ。

22日は、叔母たちや祖母などで誕生祝い兼受賞祝いの小宴を催してくれた。右手が動かず、話しがゆっくりになったことを、母自身はまだ悔やむ時もあるが、陽の当たらなかった左手が新たな可能性を開いていることに、私たちは驚いているし、母もそうだと思う。98年に福岡県で母が倒れ、意識が朦朧としていた直後からすると、想像もつかない今だ。

スーパーマンの俳優、クリストファー・リーブは数年前、落馬により頸椎損傷となり、障害を持つ身となった。そして先日、急性心不全で亡くなった。障害を持ってからの彼は、自分の障害を“克服する”ため、脊髄損傷の治療研究に莫大な投資をしている。つまり、元のように動ける体にする、歩けるようになる研究だ。私も病気の後の手術により下肢麻痺になってから、何度も再び歩けるようになる自分を想像し、現状を悔やんだりした。しかし、人体実験のような脊髄損傷治療に期待を持つよりは、障害と向き合って、障害と共に生きる人生を積極的に選択することに、新しい道を見いだしてきた。何故なら、生きとし生けるもの、絶対的に加齢や死は避けられないのだから、何かができなくなることを嘆き続けるエネルギーのベクトルを、違う方向に変えることの方が、生産的に思えてきたからだ。

先のクリストファー・リーブは、既に富を得ていたから、かえって体を元に戻す研究に執着したのかもしれない。しかし、結局命を短めてしまったようだ。水彩画と詩で有名な星野富弘さんもリーブ氏とほぼ同じレベルの頸椎損傷だが、受傷後、彼自身の新たな才能は唇に絵筆を持ったことで開花し、日本中、いや世界中の人々に感動を与える作品を作り続けている。私もそうだが、その気負わない人柄に多くの人が魅了されている。

母は障害を持った身をまだまだ受け入れている訳ではないようだし、悔やむなということは無理かと思う。しかし、星野さんが唇で絵筆を取ったように、利き腕でない左手で筆を持ち、これからも味わいのある新たな作品を創り続け、予定と違った人生も悪くないと思ってくれることを期待している。


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