教科書採択と県民の不利益 [みどり日記]
今年は中学校の教科書選定の年だ。6月議会でも特定の教科書を巡って本会議で質問が続いた。「新しい教科書をつくる会」が推す扶桑社の歴史教科書と公民教科書には問題が多いと、私のところにも教科書ネットくまもとやその他の団体から指摘が相次いでいる。たとえば、原爆についても、他の7社がその被害の状況がどうだったかを詳しく記述しているのに比べ、扶桑社は「原爆が投下された」という事実のみだ。
つくる会は、これまでの歴史教科書は自虐的で、日本の文化や伝統や歴史を愛する日本人を育てるような教科書ではないと批判する。60年前、更にそれ以前の、日本とアジア諸国の関係は、「侵略」や「植民地支配」ではなかったと言わんばかりだ。過ちであったとの認識が全く見られない。もちろん、国によって状況が多少は違うが、「大東亜共栄圏」建設のために、“日本が治める”ための侵攻であったことは事実なのだ。
戦争は、起こした国にも起こされた国にも甚大な被害をもたらす。周辺で巻き添えになった国の人々なども哀れだ。心から、「戦争という不毛な争いを地球上からなくしたい」という人を増やしていくためには、手を挙げた方は過ちを認め、そこから相手側の理解と譲歩を引き出していくことしかないのではないだろうか。時間はかかり、忍耐は必要だが、そんな真摯な姿勢が必要だ。
小泉政権になってから、閣僚や政治家のとんでもない歴史認識や発言が繰り返されてきた。中国や韓国にしてみれば、「もう堪らない」という思いだろう。歴史教科書にどの教科書が採用されるかなど、本来は自国内の問題のはずだが、受けた傷に塩をすり込むような歴史認識が盛り込まれている無神経な教科書が日本で採用されていくことを、みすみす黙認するわけにはいかないという思いだろう。
このまま県内のどこかの市町村で採用されることとなれば、熊本県への直接的な不利益も生じる。たとえば、熊本-ソウル間で定期便を持つアシアナ航空が、韓国内での世論を押さえきれず、飛ばし続けられることが出来なくなる可能性も高い。採算ラインに届いていない集客率が、なかなか回復しないという状況も、昨今の日韓関係が影響しているようだ。また、本来なら熊本-上海便もあってもいいのだが、まだ実現していない。この便の見通しも暗くなることは確実だ。更には、韓国からの観光客が多く訪れる菊池市にとっても、これまでの取り組みの足を引っ張られることになる。
県教育委員会は、扶桑社の歴史教科書を採択させたいグループや議員の働きかけに、忠実であるとは思いたくないが、荒尾・玉名地区の中学校では、2月県議会でつくる会系が提出し、採択された教科書に関する請願を、教員一人一人に配るという徹底ぶりだ。各市町村教育委員会は、よもや本県の利益を損ない、国内・国際的にも波紋を呼ぶ教科書を採択することはないと信じたい。そして、知事部局も、県教委のことだから、市町村教委のことだからと他人事とせず、熊本県にとっての具体的な不利益が、あちこちで噴出するかもしれないという危機感や懸念を表明してもよいのではないだろうか。