倉田哲也さんの映画、辛淑玉さんの講演 [みどり日記]
私は“感動”という言葉を簡単に使うのを好まない。しかし、先週末の映画と講演は、強く心に響いた。感動と言ってもいいだろう。
一つは、このコーナーでも紹介した、くまもと障害者労働センターの代表倉田哲也さんを主人公にしたドキュメンタリー映画「もっこす元気な愛」だ。障害者を描いた映画は、説教がましいものも少なくない。“障害があっても”、それを“乗り越えよう”としている人を描いた映画もそれだ。「“あんな人たち”が、がんばっているのだから、私もがんばらなくては」などと思わせる映画はちょっとゴメンだ。また、「あなたたちの人権感覚はどうなの?」と問う映画も勉強にはなるが、正直感動はしない。
ところが、この「もっこす元気な愛」は違う。しっかり人権は押さえられているものの、温かさが残り、楽しめる映画になっている。会場が爆笑の渦に包まれることも数回あった。そして時折、涙腺も緩ませる。ここまで障害を持つ人たちをありのままに描き、更に彼らの思いや生き方に親近感を覚えさせる映画はない。もともとこの映画の監督は、人権映画を作り続けてきた人ではなく、今回初めて映画の製作をオファーされ、倉田哲也さんを知って、この世界を知るようになったそうだ。ただ、プロデューサーが、障害者の就労や生活支援を実践してきた人であるので、ご両人のコラボレーションが成功したと言えるだろう。
熊本での上映を皮切りに全国展開される。ちなみに年内の熊本での上映の予定はないが、17日から東京中野で上映されるそうだ。今、県内各地、各団体による上映会の企画を要請中だ。大学・高校での授業の一環としての上映や行政の職員研修にも、うってつけだ。ちなみに、この映画のナレーションは、辛淑玉(シン・スゴ)さんが担当している。
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もう一つは、20日に黒髪の自然庵で開催された、その辛淑玉さんの講演会だ。「コムスタカ -外国人と共に生きる会」の結成20周年記念の講演だった。辛淑玉さんのお話を聞くのは、これが2回目だったが、聴くたびに彼女は“プロのマイノリティー” だと感心する。在日朝鮮人である彼女は、帰化することなく、日本名の新山節子という名を捨てて、辛淑玉で生きている。企業研修会社の経営者で、研修講師や講演活動で全国を飛び回って活躍中だ。
彼女は、2時間余りの講演で、私を含めて会場を圧倒し続けた。前語りで自己紹介した後、「今日は皆さんに、私が話す内容を決めていただきます。これからボードにテーマを書きますから、選んでください」と言って、約13の項目を書き連ねた。たとえば、「嫌いなNHKのテレビ番組」、「男の子、女の子」、「朴さんと金さん」、「クルド」、「靖国問題」、「イラク」等々。会場からは、まず「男の子、女の子」が選ばれた。
彼女は、学校で講演することが多い。女子生徒と男子生徒では、質問が違うというのだ。つまり、女の子は、生活観があり、個人的で具体的な質問が、自由に出てくると。ところが、男子校の進学校などでは、まず質問が出てこない。質問すること自体、その後からかいの対象にされる“男らしくない行為”なのだそうだ。男は黙って・・・なのか。すでに小学生・中学生のころから彼らは「男意識」に縛られているという。
そしてどうにか出てくる質問は驚くほど共通しているそうだ。それは、「辛淑玉さんは日本が好きですか?」
本質を突いた日本という国に対しての辛口の彼女の話に、進学校ではそれを斜めに受けとめる生徒は多いのだろう。もし「好きだ」と彼女が言えば、「どうして好きな国の悪口を言うのか」となる。もし、「嫌いだ」と言えば「何で嫌いな日本にいるのか。好きな国に帰ればいい」となる。これは、家族の中でのこれまでの男女のあり方にも似ていると。つまり、結婚したら、「そんなに気に入らないのだったら、この家から出て行け」、あるいは「好きなんだろ。それなら、黙っとけ」。
辛さんは彼らに逆に問う。「あなたがいう日本とは何か。国、国民、風土、自然、街?」観念的で攻撃的な質問をしているという自覚のない生徒は、閉口し、更にこう聞く。
「では辛さんは日本人が好きですか?」と。辛さんは、またまた畳みかけるように、「では聞くが、あなたのいう日本人には、アイヌは入っていますか、沖縄の人は、障害を持つ人は、高齢者は、被差別部落の人は、ホームレスの人は、女性は?」男子生徒は、返答に困り100%ダウンするそうだ。
進学校の男子生徒が、どのような環境で育ってきたかは、まちまちだろう。しかし、これから恐らく難関大学に進学し、国を動かす中枢に入っていくであろう子どもが、この段階で、「実態を直接見て、知ってものを言おう。もっと想像力や感受性を研ぎ澄まして」と、辛口の辛淑玉さんの手厳しい愛のムチを受けたことは、幸運なことだと思う。
「日本が好きであろうとなかろうと、日本で生きていくことを決めるのは私自身。そんなことをとやかく言われる筋合いはない。日本は、マイノリティーに対して、決してやさしくない国だ。それでも、少数者は生き抜かねばならない。何があっても、どんな困難にあっても生き抜いていこう」と、辛さんは講演を締めくくった。私は、弱者としての自分を正直時々忘れそうになる瞬間を感じる。社会的強者に囲まれ、迎合してしまいがちな立場だ。日本が不穏の方向に向かえば必ず、弱い者を排除し、抹殺しようとする空気が蔓延する。辛さんの言葉一つ一つは、私を元気にさせてくれた。一方、私に「目を曇らせてはいけないよ」と問いかけているように、強く、重く響いた。