母の個展(右手と左手の作品たち) [みどり日記]
99歳の祖母が元気なうちにと、4月29日に私のコンサートを開いた。今度は、母が来週から書画の個展を開く。
母は42年前に父と死別してから、私たち姉弟を育てるために働き始めた。祖母が、幼い私たちを見てくれていたので、安心して働き続けることができたそうだ。そんな母が、少し落ち着いてから始めた趣味の一つが書道だった。いくつかの書道展で入賞したりしながら、30年以上、「かな」を専門としてきた。その後水墨画も学び始め、俳句の書と墨絵を一つの作品として描く「俳画」に取組み始めた。第一回日美俳画展では、この分野では新人ながら、全国からの1200点の中で最優秀賞を受賞した。身内ながら、母の書画のセンスには一目置いている。
そんな母が倒れたのは、東京で行われたその授賞式から戻ってすぐの98年秋のことだ。母は後遺症のため、利き手の右手で筆を持つことができなくなった。もうあんな字は書けなくなったのだなあと、動かない母の右手を見ながら不憫に思ったことを記憶している。
ところが、しばらくしてリハビリとして左手で字を書き始めると、最初震えていた直線も、徐々に味のある線に変わっていき、右手の時とは違った味のある作品が生まれ始めた。おもしろいもので母の場合、頭の中の記憶や創作のソフトは障害を受けておらず、それをどう左手で表現するかだけだった。利き腕でないこともあり、集中できる時間は以前よりは短くなったし、床に紙を置いて書くことは難しく、テーブルの上で書くため、作品の大きさにも限界があるようだが、工夫しながら書き始めた。
数年後には、県さわやか長寿財団主催のシルバー作品展で、障害のない皆さんの作品の中で銀賞に選ばれた。その後も、また日美俳画展への出品を再開させ、最優秀賞まではいかないが、上位入賞し続けている。
母は倒れる前に、「そのうち作品展を開きたい」と言っていたが、今回開催するきっかけを、一番の応援者だった祖母がくれた。「障害を持ってもがんばって筆を持った人」という気負いは、母にはない。ただ、持てる手で筆を持ち、表現することを諦めず、楽しんでいるのだろう。そんな彼女の倒れる前の書と、その後の俳画を、友人知人の皆さんも楽しみにしてくださっている。是非、多くの皆さんにご来場をいただきたい。
<田上啓子個展>
期間:6月13日(火)~18日(日)
AM11:00~PM7:00(但し18日は16時まで)
会場:ギャラリーカフェ トト(上通りイーストンビル3階)
TEL・FAX 096-352-7162
ホテル日航の真裏の新しい白いビル。
もちろんバリアフリーです。