本物の福祉の専門家 [みどり日記]
本格的な梅雨が始まった。先月から雨が降り続いている沖縄では、相当地盤がゆるんでいるようだ。崩壊しそうな集合住宅の無惨な様子は、決してよそ事ではない。本県も集中豪雨と長雨には、くれぐれも気をつけなければならない。特に13,000カ所以上もあると急傾斜地など危険地域の民家は、避難体制を万全にお願いしたい。
さて、母の個展会場には、連日なつかしい人たちが訪れてくださっている。特に障害を持ってからの母は、以前とは異なり外出の機会が少なくなったので、年賀状だけで安否を確認し合っていた方々との再会を、とても喜んでいる。そして、小学校2年生の時に書いた書から、74歳の今の作品まで、彼女の軌跡を追いながら、「あの時はこうだったね」と歓談しながら、自らの記憶も呼び起こしているようだ。
今週、私は出来る限りギャラリーにいる予定だが、総会シーズンでもあり、障害者自立支援法関連の署名集め、大学での講演、打ち合わせ等々、明日の6月定例県議会開会も含めて、なかなか時間配分が難しい。とは言え、母の初めてのイベントでもあり、今週だけは親孝行を優先させたい。
その大学での講演だが、熊本学園大学環境福祉学部の1年生へのものだった。彼らは、宮北隆志教授のクラスの学生で、毎年、当事者の視点でのフィールドワークを重ねている。よく、企業や行政職員の研修で、1時間ほど車椅子に乗って、建物の周辺を廻る様子は目にする。しかし彼らは、何日も、しかも町の隅々に車いすで出掛ける。狭くでこぼこした路側帯や、車道と歩道の境目の衝撃も経験するし、電車やバスにも乗ってみる(乗車拒否にはあわなかったかな?)。街中の店舗も利用するし、多目的トイレも使ってみる。そして、気づいたことを、グループ毎に発表し合い、ヒューマンネットワーク熊本の当事者から最後にアドバイスももらう。
私の講義は、その最終日に、バリアフリーに関する制度の歴史や現状、課題などを中心に話し、ヨーロッパでの交通事情も画像で紹介した。十分なまとめになったかはわからないが、時間をかけて、実際に経験し、ディスカッションもしたことだし、きちんと自分の中で落とし込んでくれただろう。
全員がそうではないと思うが、彼らの中には福祉の分野に進み、資格をとって専門家になる人もいるだろう。しかし常に、福祉サービスの利用者、当事者の視点から物を見ることを忘れないで欲しい。「私は福祉の専門家」という人に限って、利用者の日常に目線を置いて、そこから学ぼうという視点に欠けることに気づく。福祉現場は日々変化していく。自分の学んだ時代の福祉観を押しつける教育者のような専門家は返って迷惑だ。どんなに年を重ねても、「現場の変化や多様な利用者の思いに学ぶ」習慣を身につけている人たちを、私は本物の専門家と呼びたい。当事者である私は、そんな人を見抜く嗅覚だけは身につけてきたような気がする。
とは言っても、“福祉の主役は当事者”といいつも、現場を支える職員、専門職の皆さん抜きではサービスは利用できない。そういう意味では、忌憚無く意見を出し合える対等な関係でありたい。これから福祉の現場は、行き過ぎた法制度の変更、その揺り戻しなどで、大変厳しく、混乱も予想される。昨日一緒だった熊本学園大学の皆さんが、他分野ではなく、できるだけ福祉のフィールドで仕事を得られ、将来、本物の福祉の専門家になっていくことを期待したい。