「荒瀬ダム撤去凍結」に関する申し入れ
昨日、蒲島知事に「荒瀬ダム撤去凍結」に関する申し入れを提出しました。
2008年6月30日
熊本県知事
蒲島郁夫 様
ダムによらない治水・利水を考える県議の会
渡辺利男(代表) 鬼海洋一 岩中伸司
平野みどり 鎌田聡 福島和敏
西聖一 濱田大造
「荒瀬ダム撤去凍結」に関する申し入れ
4月知事就任時より、多難な時代の県政運営に尽力なさっておりますことに、敬意を表します。
さて、蒲島県政のスタートが切られたばかりの6月4日の記者会見で、知事は「荒瀬ダム撤去凍結」と発表され、その後県内外で大きな波紋が広がっています。県財政が厳しい中、「立ち止まって考え直す」ことには何の異論もありませんが、その手法と判断には県民各層、県職員、県議会からも多くの異論や違和感が起こったことは、知事の認識が民意とずれている証左だと言わざるを得ません。
そこで、今回の凍結発表と今後の議論の進め方について、以下5点申し入れます。
1.唐突な知事の判断に対する遺憾の意
平成14年の前知事の「荒瀬ダム撤去」の判断は、決して“高揚感の中で”ではありません。地元坂本村の皆さんをはじめ、球磨川流域住民、八代海漁民の皆さんは、50年もの間、県民へのエネルギー供給のためとは言え、ダムによる河川環境の悪化と水産資源の枯渇に悩まされてきました。平成14年の水利権更新をチャンスと捉え、坂本村議会が荒瀬ダム撤去を要望し、それを県議会でも議論し、要望した結果として撤去に漕ぎ着けたという経緯があります。
ところが、就任から2ヶ月もたたない6月4日に、蒲島知事は地元の皆さんの思いや、それを受けての議会での議論のプロセスを無視するかのように、「撤去凍結」、「電気事業継続」と決定されたかのように受け取られる会見をされたことを、大変遺憾に思います。
ましてや、県庁の関係各部・各課を巻き込み総合的にデータを集め、検証し、少なくとも庁議で各部長にも意見を求めることなく、企業局からの説明だけで、発表に至られた首長としての政治手法を大変遺憾に思います。
2.撤去費用増加の根拠に対する疑問
企業局からの資料によれば、当初想定された費用は、撤去費用や管理・環境対策費合計60億円だったのに対し、その後、撤去費用の護岸工事補修費用等の増加見込み、管理・環境対策費用は泥土処理費要等の増加見込みにより、12億円増しの合計72億円としています。しかし単に「想定時より実際は高くついたから」では、県民は納得がいきません。どこの想定が間違っていたのか、あるいは甘かったのかなど、各工事の発注内容や見積もり書などを開示し、増加の理由を明らかにすべきです。
3.タービンを更改してまで継続しようとする発電事業の必要性
県内の電力需要は111億6100万kw/hで、そのうち水力発電は約10%を占めています。更に、8カ所ある水力発電所のうち、荒瀬ダムによる藤本発電所でのエネルギー供給は県内の電力全体のわずか0.6%です。もちろん、水力発電は、火力発電より二酸化炭素排出が少ないクリーンエネルギーではありますが、ダムという建造物で河川に負荷を与える発電方法と考えるなら、水力発電=クリーンエネルギーと位置づけるには無理があると環境専門家は言います。
ましてや、荒瀬ダムによる水力発電を継続するには、タービンやゲートの更新などで60億円の費用がかかります。売電料金での回収が可能とは言え、継続した場合にかかる施設費、管理運営費等も最終処分予定年月日まで明らかにされていないなど、未来に不確定な要素はまだ残ります。
60億円もかけて更改してまで、発電を継続していく必要はないと考えます。
4.河川や八代海に及ぼす環境負荷の大きさに対する認識
平成14年に荒瀬ダム撤去が決定されてから、年に数回約1ヶ月間、荒瀬ダムのゲートが全開され、それまでとどまっていた川の流れが生まれました。最初は泥土が八代海に流れ込み、赤潮が発生しましたが、何度か開門されるうちにきれいな川の水が八代海に注ぎ込み、水産資源が徐々に回復してきたと、八代の漁民の皆さんは、自然の回復力を驚いておられます。いかにダムが河川に負荷を与えて、その影響が八代海にも現れていたかがわかります。
折しも、6月27日には佐賀地方裁判所において、有明海の水産資源を含む環境への影響を検証するために、「国は諫早湾干拓事業の排水門を5年間開け、調査すること」とした判決が出されました。これは、海における構造物が自然の生態系に影響を及ぼすことを少なからず判断した結果であり、流れのある川においては、尚一層海への影響が大きいと考えられます。川に構造物が存在しない自然の生態系に勝るものはありません。川は人間の独占物ではありません。一日も早く元の姿に戻すべきと考えます。
5.県財政問題と環境問題との整合性が保てる解決方策について
蒲島知事が最も腐心されておられるのは、いかに熊本県が財政破綻せずに、県政を何とか好転させていけるかということであると思います。もちろん、県議会議員である私たちも同じ思いで、県政に向き合っております。
一方、環境問題は、無駄なエネルギー利用の抑制や、クリーンなエネルギーの生産、さらには、地球温暖化の中にあって、いかに自然に負荷を与えず、自然を回復させ、そのことによって生み出される価値を高めていくかなど多岐に亘ります。わずかな水力発電の維持のために、半世紀にも亘り消失されてきた河や海の環境や水産資源の回復に、ストップをかけるとなれば、知事の環境についての大局的な見地が疑われても仕方ありません。
環境立県を標榜する熊本県として、自然との共生を政策の根幹におくべきです。財政上、すぐにダムを撤去することが困難であるならば、将来撤去が可能となる時期が到来するまでの間、ゲートを全面開放するなど、財政・環境の両面から折り合える次善の策を、県民の英知を結集して見つけるべきだと考えます。