映画「おくりびと」に思う [みどり日記]
以前は、映画館で邦画を観ることはあまりなかった私だが、最近は、洋画に偏見がある夫(ハリウッド映画嫌い)の影響か、邦画と洋画の半々で映画館に足を運んでいる。そんな中、タイトル、ポスターなどで想像する限り、あまり気が進まないなと思いながら観たのが、「おくりびと」だった。何だか辛気くさそうに思えた。しかし、この映画は、そんな予想を見事に裏切って、私を笑わせ、泣かせ、死をテーマにした映画であるにも拘わらず、温かい気持ちにしてくれた。
私が5歳の晩秋のある日、父は突然帰らぬ人となった。「早朝、父の交通事故死を伝えにきた会社の人」、「母の悲嘆」、「病院から戻ってきた母がすすり泣きながら私を抱きつつんだこと」、「家に戻り、頭を包帯でぐるぐる巻きにされ、布団の中で身動き一つしない父」、「初めて経験した線香や菊の強烈なにおい」等々・・・。時系列で流れたその日の記憶は、40年以上たった今も不思議と鮮明だ。幼い心は、父親の死を通して、何とも理不尽で、残酷で恐ろしいものが「人の死」と認識した。
成長するにつれ、人生の様々な場面に遭遇し、時に死と隣り合わせの経験を経ながらも、私は今を生きている。そして、想像せずにおきたくても、着実にあるいは突然に、「あの日」はやってくる。つい一昨年は、身近な存在だった祖母の天寿とも言える自然な死の場面も経験した。自分自身のこととも含め、しっかり向き合わなければと思っていた。
そんな時観たのが「おくりびと」だった。ひょんなことから、納棺師という仕事に出くわした主人公が、戸惑いながらも一人前になっていくというストーリーだ。映画の中に登場する死者たちを通して、彼らの人生背景や家族の状況も垣間見られ、一人一人の死がたった一つであり、特別であるとも感じさせてくれた。温かく、穏やかで、時にユーモラスな場面もちりばめられた珠玉の作品となっていた。
この「おくりびと」が、日本のみならず、世界でも受け入れられ、高い評価を受けたのももっともなことだ。アカデミー外国語作品賞の受賞を心から喜びたい。「おくりびと」の脚本は、天草出身の小山薫堂氏によるものだ。小山氏も脚本家デビューでとんでもない賞がついてきたわけだが、今後もプレッシャーをはねのけて、活躍し続けていただきたい。これって県民栄誉賞ものかもしれないと思うのだが、さてどうなるだろうか。